仁豆腐に入っている缶詰のみかん。
薬品で剥皮しているとは露知らず、1つ1つ手で剥いてると思っていた。
そして、みかんといえばコタツでお婆ちゃんが剥いているという勝手なイメージ。
工場に1列に並んで座る割烹着姿のお婆ちゃんたち。
小さな老眼鏡と、ちょっと丸まった背中がなんともカワイイ。
疲れた肩をとんとん叩いたり腰を伸ばしながらせっせと働いている。
夕方になり早番の上がり時間が近づくと、残業などして水戸黄門の再放送を見逃してなるものかと、ちょっとだけ作業のペースが上がる。
そんなお婆ちゃんの中にもカリスマ的な皮剥き名人がいる。
一秒間に10粒の皮を剥く「早剥きのおせつ」。
まるで優雅な踊り子の舞いのごとく剥く「踊り剥きのおきぬ」そして、その頂点に立つカリスマたちのカリスマ「おたえ」。
彼女の前ではみかん一粒一粒が自らがその皮衣を剥ぐという。
そんな童話「北風と太陽」でいう太陽のような彼女はこう語る。
「私だって最初から上手くいってたわけじゃないよ。
正直みかんは好きじゃなかったからね。
若い頃なんて、毎日毎日、失敗を重ねるし、イジワルな先輩からは怒鳴られるし、しょっちゅうトイレで涙を流したもんさ。
それでも負けず嫌いの私はね、何度も何度も挑戦したんだよ。
そうするとね、いつしかみかんも私の頑張りに答えてくれるようになったのさ。
要するに最初から上手くいくとか、馬が合うとか合わないってのは、それほどたいした問題じゃないのさ。
大切なのは相手に歩み寄ること、そして相手ときちんと向き合うこと。
コミュニケーションなんだよ。
でね、それって決して剥皮に限ったことじゃなく、私たちの日常にも当てはまる気がしてね、それに気づいたとき、なんだか2つの意味で一皮剥けた気がしたよ。」
なるほど、深いですね。
さてさて、そんな薬品の剥皮が商業的に行われたのは大正12年頃らしいであります。
ってことは工場のお婆ちゃんたちが子供の頃からあったってことね。
(そんな工場ないって)
Ⓒイラストレーター トツカケイスケ