vol.004 節分

節分

もうすぐ節分ですね。
みなさんは豆まきしますか?
年の数だけ豆を食べますか?
涙の数だけ強くなれますか?

古くは平安時代から行われたと言われる邪気払いの豆まき。
そんな国民的行事に切っても切れないのが「鬼」。
でも豆をぶつけられたくらいで逃げてしまうものかと思うと、桃太郎や一寸法師など昔話で鬼退治に悪戦苦闘してきた英雄たちの苦労が不憫でなりません。
その不憫さを思うと、切なくて切なくて夜も眠れま…せ…

ZZZZ…

おはようございます!

とまぁ、キッチリ快眠しちゃったわけですが、そんな絵本の中では鬼という存在は人間に害を与える悪者とされることが多いですが、人里離れた山に住む赤山赤太郎はとても心の優しい鬼です。
そして赤山赤太郎は頭のてっぺんに立派な一本の角を生やした青鬼です。
(ややこしい!)

毎日毎日、雨の日も風の日も汗水たらして働いています。
そして、その作物を自分の子供のように可愛がって育てています。

節分1

しかし、鬼であるが故に人間の住む町で店を構える事をためらう赤太郎は収穫された野菜を基本的にはインターネットで販売しています。
赤太郎が愛情をたっぷり込めてつくる育てた作物はそれはもう大人気で、多くの野菜ソムリエたちからも一目置かれています。

そんなある日、インターネット回線をADSLからフレッツ光に変えるため新しいLANケーブルを買いに行こうと街に降りました。
寅柄のパンツ一丁という普段の格好では鬼ということがバレれてしまい人間を怖がらせてしまうと思った赤太郎は、頭にはニット帽、顔にはマスクとサングラス、スカジャンと黒のレザーパンツ姿に変装しました。
絶対に鬼だとはバレないだろうと自身満々で歩いていたのですが行き交う人からは何故か怖がられます。

せっかく変装をした彼ですが、その日は2月とは思えない春のような気温となった為、赤太郎はうかつにも上着や帽子を脱いで店内に入ってしまいました。
すると、近所に住む親のしつけが行き届いていない子供たちが豆を持って集まり店の中にいる赤太郎に向かって「鬼は外〜鬼は外〜」と豆を投げつけてきました。

親のしつけが行き届いていない子供たちは、場所もわきまえず、さらには嫌がる赤太郎などお構いなしに容赦なく豆を投げつけます。
そして、親のしつけが行き届いていない子供たちは豆を投げ終わると何事も無かったかのように、他の買い物客にぶつかりながら店内を走って去っていきました。

赤太郎は落ちた福豆を拾いながら悲しげな表情を浮かべました…。
「大豆…いま稀少で高値なのにもったいない…」
(そこ?!!)

そして、その良質で肌艶のいい福豆は皮肉にも赤太郎の畑で穫れた大豆でした。
悲しみを抑えられなくなった赤太郎はLANケーブルを買わずに普段はめったに行くことのない酒屋さんに向かいました。
涙で前が見えない赤太郎は、とにかく最初に目に入った大きなパックのお酒を買うと店を後にしました。
涙を拭って改めてパックを見てみると、それは愛知県清洲が生んだ清酒「鬼ころし」でした。

「ここでもか…」

しかし、気にしても仕方がないと帰り道にある公園のベンチに座り酒のパックを開け口に含みました。
すると、まろやかでコクのあるその味が赤太郎の心を少しだけ元気にしてくれました。

赤太郎は慣れていないお酒にすぐに酔ってしまい、頬を赤らめました。
元々青色なので正確には紫色になり、そして何やらボソッとつぶやきました。

そのつぶやきの内容を遠くのベンチから唇の動きで読み取っていたのが、ロシアが生んだ読話術の第一人者、クチ・ビルーノ・ウゴッキー氏。
彼に話を伺うと、いつも明るくて前向きな赤太郎には珍しくこんな言葉をもらしていたようです。

「どうして何も悪い事をしていないのに鬼というだけで忌み嫌われるんだろう…
絵本とかじゃ、なにかと退治されるし…
僕からしたら人間の方がずっとずっと怖いよ…」

そうです。
人間の中には自分の欲の為に、躊躇も無く他人を犠牲にしたり傷つけたり、さらには自然を壊したり、動物たちから毛皮を狩り取ったりする者が沢山います。
ひょっとしたら、本当の「鬼」というのは私たち人間の心の中に住んでいるのかもしれませんね…。

 

と、ここに来て真面目ぶった終わり方で恐縮ですが、どうか僕に豆を投げつけないで下さい。
固くて痛いので、どうか投げつけないで下さい。
煮豆だったら良いのかっていうと、汁とかヒジキが服に付くので、どうか投げつけないで下さい。

Ⓒイラストレーター トツカケイスケ