-前回までのあらすじ-
3つ首のドラゴンが住むという炎の谷に向かった僕は…
(そんなアドベンチャー要素ありませんでしたけど!!)
そうそう、ダイエット祭りとか言っちゃいましたが特に大げさな事はしてません。
ゴムのバンドを持ってどこぞのブートキャンプに入隊するわけでもなければ体内に寄生虫を飼う訳でもなく、無理して絶食することもしません。
やはり三大欲でもある「食」を抜いてしまうのはココロにもカラダにも良くないし第一、柔道初段のあの人に怒られてしまいます。
僕が実践したのは、朝も昼も好きなだけガッツリ食べる。
でも夜は野菜オンリー。
生のまま素材本来の味と食感を楽しむのもよし、煮てよし茹でてよし、オーブンで焼いてもよし。
でも漬け物は苦手…。
更には野菜の種類とドレッシングを変えれば組み合わせのバリエーションは星の数ほどあるので飽きることなく続けられます。
そんな野菜ナイトとプラスαのちょこっとした努力も手伝ってか、成果はきちんと数字に表れます。
1週間後には1キロ減り、2週間後には2キロ減り、3週間後には3キロ減り…
これは我ながら誉れな経過です。
このまま順調にいけば、あっという間に任務遂行であります隊長!
(あれ、ブートキャンプ入隊しました?)
しかし、そう上手くいかないのもまた人生。
マイムマイムを踊りながら喜んでいた矢先にやってきた思わぬ試練…
サッポロビール社から今年もシルクヱビスが期間限定で発売されたのです。
スーパーでそのお姿を発見した瞬間、まるで絹のようにきめ細かく、優しくて上品で滑らかな泡の口当たりに魅了された昨年の記憶が蘇ります。
そして、その記憶という名のシルクロードを通り続々と誘惑たちが押し寄せてくるのです。
僕は理性とは裏腹に微笑むヱビス様のラベルの缶を手に取ります。
すると、小さな天使が現れ耳元で囁きます。
「ダメよ!せっかく頑張ってきたんだから我慢しなくちゃ!」
僕は理性を取り戻しヱビス様を陳列棚に返還しようとすると今度は反対側の耳元に悪魔が現れて、悪そうな顔つきで甘い誘惑を囁くのです。
『いいじゃねぇか、1本くらい。
それに、無理に我慢するとカラダに悪いぜ…ヒッヒッヒ』
すると、すかさず天使が割り込んできます。
「こんなヤツの言葉に騙されちゃダメよ!」
『お前は黙ってろ、このブス!』
「ブスとはなによ、ブスとは!このおたんこなす!!」
『なんだと、このチビ!そして昭和な髪型!!』
「なによ、この鈍感野郎!」
『鈍感野郎ってどういう意味だよ!』
「鈍感だから鈍感って言ったのよ!」
『何言ってやがる!俺はペットの気持ちすらわかるほど敏感だっての!』
「だったら、あたしの気持ちにも気づいてよ!!」
『え…?』
つい勢いで発してしまった動揺と恥ずかしさを隠すため頬を赤らめて下を向く天使。
『お、おい…それ、どういうことだよ??』
悪魔は天使よりも動揺した様子で聞き返す。
「な、なんでもないわよ…」
『だって、お前いつも俺のこと嫌いって…』
「そうよ、アンタなんか嫌いよ!言葉使いは悪いし、不潔だし、下品だし…大嫌いよ!
でも…でもあたし知ってるもん。不器用だから自分を悪く見せちゃってるけどホントはすごく優しくて温かくて真っ直ぐで、いつも自分よりも他人のこと優先に考えてて、たまにバカ見て…
だからわたし…わたし、そんなアンタのこと大好きなんだもん!」
(なにこの展開っ?!!!)
そういえば、先日近所の本屋にぶらり足を運んだところ、幸せそうな顔をした天使と悪魔が仲良くゼクシィを買うところを見かけました。
耳を澄ますとあのテーマソングが聞こえてきます。
♪buttefly 今日は今までの どんな日々より素晴らしい♪
これは祝杯をあげるしかないと、僕はシルクヱビスのフタを躊躇なく開けました。
やはり絹のようにきめ細かく上品で優しい泡が口の中に広がります。
目を閉じると、幸せいっぱいの天使が纏う純白で可愛らしいレースをあしらったシルクのウェディングドレスが浮かびます。
Ⓒイラストレーター トツカケイスケ