僕はとても安上がりな子だった。
寿司、ウナギ、ステーキ・ハンバーグなど、一般的に高いとされている料理が好きでなかったので、外食をしてもお財布に優しいなんとも親孝行な子だった。
映画ドラゴンボール「摩訶不思議大冒険」にて舞踏会前の飲食店でのシーン、ウパが父親の懐具合を気遣って「父上、ボク水でいいよ!」と言った、あの有名な感動シーンを彷彿とさせる。
(たいていの人、それ知らないから!)
なので、その頃は寿司屋に行ってもカッパ巻きばかり食べていた。
家族がトロだのウニだのイクのだのを口いっぱいに頬張り「お口の中が竜宮城や〜」と言ってるなか、僕はひたすらカッパ巻きを食べていた。
そんなアルフィー(ある日)祖父宅の近所にある寿司屋に入ったところ店の壁に掛けられたメニューの札に「ラーメン」の5文字を見つけた。
(4文字だけど…ツッコむのもなんだか)
僕は目を疑った。
寿司屋でラーメンが出てくるなんて、まるで、オオミミトビネズミをロンドンの近郊で見かけるようなもんだ…と。
(例えが分かりづらい!)
板前さんは
「ラーメン扱ってる寿司屋なんてウチくらいッスよー!」
と誇らしげに言っていた。
まるで、スパルタンエックスの4階を一度もダメージを受けずにボスまでたどり着いたかのような誇りっぷりだった。
(例えが分かりづらいって!)
たしかに、寿司屋に来てラーメン注文する人間がどれだけいるんだオイって中で厨房にラーメンスペースを設けるのは常識では考えられない。
超常現象と言っても過言ではない。
僕はその言葉を信じて普段注文するカッパ巻きではなくラーメンを注文した。
そもそもカッパ巻きが大好物ってわけでもなかったし「カッパ巻き」とか言っておきながら、カッパが巻かれている訳でもなし。
とはいえ実際カッパが巻いてあっても困るのだが…。
見た感じは30代前後のカッパが、酢飯に包まれ海苔を巻かれている。
「俺、こんなハズじゃなかったのに…」と志半ばで人間に捕まり売り飛ばされた可愛そうなカッパを、どうして口に入れられよう。
「雌ガッパにお酌してもらったり膝枕してもらいたかったのに…」
と黄桜のCMのシーンを彷彿とさせる発言を涙ながらにしている可愛そうなカッパを、どうして醤油皿につけられよう。
さてさて、普通のラーメン屋よりはちょっと時間がかかったが確かにラーメンが差し出された。
ナルト、メンマ、ほうれん草、チャーシューが乗った昔ながらの醤油味だった。
本当に寿司屋でラーメン作ってるとは、やるなぁ大将!っと褒めて使わそうと思ったその瞬間、僕はある光景を見逃さなかった。
裏口からどこぞのラーメン屋がオカモチを持って帰って行く姿を…。
Ⓒイラストレーター トツカケイスケ